Denmark, A Cultural Powerhouse #8
働き方改革のコンセプトは浸透しているものの、気がつくとどこか折衷案的に考えてしまいがちな「ワーク」と「ライフ」を、”午後4時に帰宅するデンマーク人たち”に流れるカルチャーを通して見つめる。
Working and Living
働くことと生きること
地球上で最も幸福度が高いと言われるデンマーク人。その生活の満足度に繋がるファクターは、彼らのワークカルチャーの中にも見つけることができます。国際的な調査によると、デンマークは最高のワークライフバランスを実現している国の一つで、年5週間のバケーション保障や柔軟な勤務制度など、家族や友人と過ごす時間、個人の趣味や休息の時間を大切にできる仕組みが整っています。
その環境を作り出しているのは、仕事は生活の一部であって全てではないという考えと「働くために生きる」より「生きるために働く」姿勢。しかし働く時間が少ないからといって、決して仕事が軽視されているわけではありません。時間内に最大限のパフォーマンスを発揮することや、働きながら充実した生活を送ることも大切とされており、仕事を通じて得られる出会いや知識、そして自己成長と成果、社会貢献は彼らにとって働くことへ大きな意義を与えています。
デンマークの人々は、仕事が孤独を埋めたり家庭を築くための代わりでもないことをよく理解しています。仕事にはその役割があり、人生には別の価値があることを心得ているのです。
Meaningful Work and Purposeful Living
働きがいと生きがい
日本人の長寿の秘訣として海外でブームとなり、世界でも通用する日本語となった ”Ikigai”(生きがい)。日本に古くから伝わるこのコンセプトは「生きる目的(a reason for being)」や「毎朝目覚める理由」として、愛するものや得意とするもの、自分の道徳観と価値観を示せるものという風に広く理解されています。
デンマークといえば、夕方4時台には帰宅ラッシュを迎えるという誰もが憧れるであろう働き方とライフスタイルが注目されますが、実は全員という訳ではなく、職種によっては日中に終わらなかったタスクを持ち帰り家族が寝ている間に終わらせる人もいる模様。仕事と家庭を本気で大切に考えるからこそ、”両方を選ぶための手段”として午後4時に帰るのです。
フォルケホイスコーレに行き、自分が何に興味を持っていて、どのように社会貢献できるかを見つけるために時間を惜しまないことからも分かるように、デンマーク人にとっては収入だけでなくやりがいや喜びを得られる仕事、使命だと思える仕事を選ぶことがスタンダード。そのため残業をすることも「自分がやった方が良いと思うから」という意欲的な選択になります。
仕事とプライベートの両方において役割を果たすため、ある種ストイックとも思えるこの勤勉さには「どちらも大切にしたい」という強い目的意識すら窺わせます。生きる目的があると感じることと、自分がどこに向かっているのかを理解していることはデンマーク人の働きがいに直結しており、目的と手段を上手に切り分けることもまた彼らから学べる”ブレないためのヒント”かもしれません。
Career Goals vs Life Goals
キャリア観と人生観
多くのデンマーク人は、キャリアの成功が人生の成功を意味するとは考えていません。むしろ、充実したプライベートや家族との時間を大切にしながら社会に貢献できる仕事に従事することが、真の成功だと捉えられています。
効率や生産性を大切にしながらも個人主義的ではなく、学校でも職場でもチームの一員としてどのように協力するかを重視します。上下関係がなく誰もが意思決定の場に参加することができ、仕事においても個人主義的な考えはしません。加えて互いを称え合うという職場文化も、“成功”の本質と本当の豊かさについて示唆を与えてくれそう。これらは彼らが親しみを持つヒュッゲやヤンテの掟の価値観にも通ずるものがあります。
デンマークでは、仕事だけに没頭するのではなく豊かな人生を追求することが重要視されています。それはつまり、働くから豊かな暮らしをできるのではなく「豊かな暮らしの中に働くがある」という考え方です。
毎年9月末の「GLOBAL GOALS WEEK」は、SDGsの達成に向けた取り組みが世界中で注目される時。その中でも目標8で掲げられている「働きがい」は、私たち自身の働き方や価値観に深く関わっています。制度や外的変化を待つのも、何を選び、どう生きるかもそれぞれの選択次第。
自分にとって本当に大切なものが何かを見極めることは私たちのバイアスを取り除き、価値観を変えるきっかけになるかもしれません。
Text: Sara Um