Denmark, A Cultural Powerhouse #14
「正解のない時代」を生き抜くための学校がある。高い国際競争力を保ちながら、個人の幸福度も高いデンマークのビジネス文化、リーダーシップとチームワークを紐解く。
CHAOS-PILOT
カオスを進む
デンマークで誕生したKAOSPILOT(カオスパイロット)は、国際的にもユニークな”経営学を教えない”ビジネススクール。絶え間ない変化に様々な利害関係が絡まりあい、未来は予測不能、単一の正解など存在しない現代社会(カオス)の中で舵を取る人(パイロット)を意味する彼らの使命は、社会に違いをもたらす人材を育てること。
複雑さと不確実性が前提となった時代、より良い未来のため力を発揮し続けられるワールド・チェンジャーを育てるKAOSPILOTとそれを支える文化には、私たちの働き方やあり方のヒントが眠っているかもしれません。

Image: Kaospilot
Leaders Duty
リーダーの役割
デンマークの独特な教育制度に見られるフラットな組織文化はKAOSPILOTでも同じく、先生と学生の関係は極めて対等。教える側は、答えを持った座学の講師ではなく「チームリーダー」として存在し、問いを投げ、議論を促すファシリテーターとして機能します。
ワークカルチャーにおいても、上司が細かな指示を出すことはなく、環境を整えることがマネジメントの仕事とされています。意思決定の背景やオープンな情報共有が社会の基盤となっているデンマークでは、透明性と信頼関係こそが協働のカギ。信頼されていると感じたとき、自然と部下は裁量と責任を引き受け、自律や内省、自ら考える姿勢へと意識が向くと言います。
現代のリーダー像とは権限や肩書きの強さではなく、主体的に動けるチームの土台となる信頼を築きあげる役割そのものです。

Image: Kaospilot
Self Leadership
セルフ・リーダーシップ
新しい価値を生み出すイノベーションや、既存の枠組みを越えるクリエイティブな発想に欠かせないのは明確なビジョンと、それを志す自分が何を大切にし、どこへ向かおうとしているのかをよく知ること。その前提に立って、KAOSPILOTでは”人を動かす力”以前に、”自分自身を率いる力”としてセルフ・リーダーシップが繰り返し語られています。
成績表がない理由も、正解を導き出すことより「自分はどうしたいのか」が問われ続けるため。外部からの評価という基準がなく判断に困ってしまう時、最後に残るものこそ彼らが大切にしている本質です。
“周囲にとって無難”でない選択は、とりわけ調和を重んじる文化の中では異端や反逆と映ることもあるがゆえに私たちにはかなりのハードワークですが、このような対話を通して「自分が何に情熱を持ち」「どのような人生を望んでいるのか」を掘り下げていくのだそう。
そして多様な個性の中で他者との違いを認識し、その違いこそが自分自身の価値なのだと理解したうえで、アイデアや企画を形にしていくプロセスを積み重ねていくのです。

Image: Kaospilot
セルフ・リーダーシップを実践する生徒たちは、チーム内での役割を自ら定義し、自分の限界や弱さを共有することも度々。衝突や失敗が起きた時には「誰が悪いか」ではなく「自分は何を見落としていたのか」「どういう状態で判断をしたのか」に向き合うことを学びます。
リーダーが”役職”ではなく”役割”であるならば、リーダーシップにおける価値は力にではなく、その人の存在にある。真のリーダー性とは自身の価値を見出すことから始まり、そのあり方は、立場に関係なく誰もが選び取ることができることをKAOSPILOTは教えてくれます。

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Healthy Team Culture
健全なチームカルチャー
私たちにとっては、空気を読むことや同調圧力と結びつきがちな“チームワーク”という言葉。一方、ここで語られるチームワークは居心地の良さよりも、健全な緊張感を表します。
チームワークの国と言われるデンマークであっても、衝突を避ける文化はありません。意見の違いは避けるものではなく、考えを深めるための素材。議論は対立ではなくプロセスと捉えられます。異なる視点を歓迎し時間をかけて合意点を探る姿勢は、政策決定の場にも共通して見られる特徴です。

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多国籍、多世代のメンバーが集まるKAOSPILOTでは、価値観の違いや意見の対立は日常茶飯事。重要なのは全員が同意することではなく、納得できる地点を見つけることです。プロジェクトの失敗さえも前提として扱い、チームはそこから何を学び、どう活かすかを大切に対話します。
誰でも安心して発言できる心理的安全性と失敗を責めず学びにつなげる姿勢は、彼らの健全なチームカルチャーの根幹となっています。そして判断の背景や得た学び、チームに与えた影響のようにプロセスの質を問う視点は、メンバーを消耗させずに成果へのコミットメントを高めるためデンマークのビジネス現場にも見られるものです。

Image: Kaospilot
さらにKAOSPILOTでは、チームとしての成果をビジネスという経済活動だけで完結させず、デンマーク全体で長年重視してきた持続可能性と社会的インパクトに向かわせています。短期的な利益を得るよりも長期的に信頼され続けるために、「何をするのか」「なぜそれをするのか」、ビジョンと価値観を問い続けられるのです。
Brave Beats Brilliant
才能に勝る勇敢さ
「世界を変えたい」という思いを胸に集まった人々が企業や行政と協働しながら、実社会のリアルな課題に対してチームで考え、行動し、失敗から学ぶKAOSPILOTの日常。
変化のスピードが速く、正解が見えにくい時代においてデンマーク流のリーダーシップが教えてくれるのは、特別な能力でもカリスマ性でもありません。多様な個性と一人一人の魅力、その価値を力に変える信頼関係、違いを消さない勇敢さです。

Image: Kaospilot
Text: Sara Um