Denmark, A Cultural Powerhouse #10
時代のニーズを上手に結び合わせながら、さまざまな分野で先頭を走り続けるデンマークのパワーの源とは。
Blessing from Organic
オーガニックの恩恵
化学肥料や農薬を使用しないため土壌や水が汚れにくく、生態系を保護する働きもあることから気候変動への配慮もできるオーガニック産業。生産者が農薬による不調を回避できるうえ、農薬の残留リスクの低さは消費者にとっても安心。そして動物たちは自然に近い環境で飼育されるため、アニマル・ウェルフェアの観点からも支持が。
環境先進国デンマークにおいて、地球にも人にも優しいオーガニックはまさに期待の星と言えますが、その恩恵はオーガニック大国となる歩みの中にも隠されています。
Result of Everyday life
ゴールは日常の先に
1人あたりの年間オーガニック商品消費額は世界でもトップクラスで、国民の4人に3人が毎週のようにオーガニック食品を購入していると言われるデンマーク人。スーパーマーケットには当然のようにオーガニック製品が並び、一般市民にもアクセスしやすい環境が整っています。そのニーズの高まりは世界一のオーガニック市場のシェアとされるほど。
環境への配慮がライフスタイルとなっている彼らにとって現在は当たり前の光景も、その歴史は長く、35年も前から政府の積極的な取り組みによって実現してきたものだそう。オーガニックが身近な存在となれたのも、あらゆる分野で独自路線を貫いてきたデンマークのバイタリティゆえです。
実は、世界で最初にオーガニックの基準を設けたのもデンマーク。産業のフロントランナーとして、今も満足することなくオーガニック生産の拡大に向けて野心的な目標を掲げて前進する彼らからは、なりたい姿と目指すべきゴールの明確さが窺えます。
Grown and Invested generation
オーガニック育ち
デジタル・ネイティブならぬ、”オーガニック・ネイティブ”世代が育ってきていることからも、デンマーク人が何を大切にしているかを垣間見ることができそう。
デンマークでは学校教育を通じてオーガニック食材の知識を深める様々な取り組みが行われており、農業体験や学校給食での提供、従来のノン・オーガニックな農法との比較などを通じて子どもたちがオーガニックについて学ぶ機会が増えています。メディアを通じても食育や環境教育が盛んに行われており、年齢に関わらず一人の”消費者”として考える意識を芽生えさせています。
さらにサプライチェーンやリテール業界の積極的な動きも相まって、オーガニック製品をスーパーマーケットチェーンで手頃な価格で手に入れられるようになったことで、売上のトップシェアを若年層が占めているというデータも。
オーガニックが高級店や一部の人のためのものではなく、誰にとっても実現可能なエコとして開かれているのは、次世代への投資が結んだ実でもあります。
It’s more than a Star
バリューよりも輝かしいもの
オーガニック製品を見分けるためにパッケージに印刷された認証マークは日本でも目にすることができますが、デンマークではレストラン専用の認証を持つ徹底ぶり。オーガニック食材の使用量に応じたマークを入り口付近に表示することが義務付けられています。
オーガニックがスタンダードであるがゆえ、デンマークの多くのレストランではオーガニック食材を使った料理ではなく、”オーガニックでない“メニューの方に表記がついていることも珍しくないよう。
さらにはエコフレンドリーを実践しているホテルへの認証も存在し、部屋のリネンやアメニティがオーガニック製品であるといったサステナブルな取り組みをしている施設は、コペンハーゲンのホテルの半数以上にものぼるのだとか。
彼らにとって認証マークとはステイタスではなく、自由な選択のためのコミュニケーションなのです。
デンマークがオーガニック大国となった背景には、”ポジティブなコミュニケーション”があります。
オーガニック市場の拡大に貢献した有機農業団体が実践したのは、伝統的な価値観でもあった「従来の農作」と敵対しないこと。彼らは批判ではなく、オーガニックの利点にフォーカスすることによってその価値を広め、政府の支援と消費者、ついにはノン・オーガニックである農家たちの信頼を得ることに成功しました。
受け継がれてきた伝統と歴史を否定せず、むしろ全体的な発展のために働くことでより豊かな産業を築いているデンマーク。そのカギは、始めから競わない彼らのスタンスにも現れるように、隣ではなく上、もっと高い視点から眺めることです。
Text: Sara Um