Denmark, A Cultural Powerhouse #13
リスペクトが世界をやわらかくする。デンマークに学ぶ、信頼と敬意の文化。
People Come First
人を中心にした幸せ
「世界で最も幸福な国」として知られるデンマーク。その幸福は偶然によるものでなく福祉や経済といった外部的な環境と、習慣や価値観といった内面的な要素が重なりあって生み出されているものと言えます。
彼らの”人とその幸せを中心にした考え方”は、有名なプロダクトデザインや街づくりに限らず、人との関わり方にも見受けられる視点です。互いを信じ、敬意を持って関わることがこの国の幸福を支える土台であり、幸せのかたちそのものとなっています。

Image: John Thachil
Built on Equality
平等と信頼
ビジネスから日常生活すべてにおいて、デンマークでは「信頼」が重要な役割を果たしています。自国の公的機関も明言するほど、人々にとって信頼とは、言葉を超えた“インフラ”のような存在。
職場では普段から上司と部下の距離は近く、誰もが分け隔てなく意見を交わします。会議では新人の意見にも耳を傾けるのが当たり前。一人一人がチームに貢献できる立場であるという前提をもとに、権力的なポジションよりも、その人が持つ専門性や責任に対して敬意が示される傾向があります。
信頼は個を引き出す力、見えない資源、そして豊かさの指標とも言えそうです。

Image: Shane Rounce
Power of Collaboration
協働で支えあう
学校教育でも「協働」、つまりコラボレーションを重視するため、小学生の頃から課題はグループで取り組み、互いに補い合うのが基本。休暇を取る同僚の仕事を引き受けることや、家庭の事情で早退するメンバーに声をかけることを“特別な優しさ”ではなく、誰かが困ったら自然に助ける”習慣“として捉えます。
人と協力しながら成果を出すアプローチは、デンマークの国際競争力の強さの源であり、結果として組織や社会生活での安定感や効率を高めることへ繋がっているのです。

Image: VENUS MAJOR
「リーダーは弱さを見せてはいけない」「部下だから意見を控える」「親には分かるはずがないから言わない」といったマインドや構図なく、語ること助けられることが恥や甘えとされない文化では、組織やプロジェクト、家族やコミュニティの中に絶えずダイナミズムと変化がもたらされます。
Mutual Respect
対等なリスペクト
親は子どもを”まだ未熟な存在”よりも”自分とは違う一人の人”として扱い、子どもの意見を尊重して家族が対話する。デンマークのリスペクト文化は、家庭の中にも深く根づいています。そこにあるのは勝ち負けでも、どちらが正しいかの証明でもなく、相手の立場を理解しようとする姿勢です。
「話を聞いてもらえる」「自分は大切にされている」と感じる心理的な安心は、柔和で他人を尊敬できる人格が育まれていくために必要なスペース。大人にとっても同じく対立や孤立で終わらせないコミュニケーションの中に、健全で幸せな人間関係を見つけられるかもしれません。

Image: Tita
Honest Communication
まっすぐに語り合う
「自分を他人より優れていると思ってはいけない」という社会規範(ヤンテの掟)が根付くデンマークでは、上下関係や優劣を強調しない代わりに「率直さ」を大切にする価値観があります。
不満をためず建設的に伝え、問題があれば直接話し合うことは、相手への礼儀であり“尊重しているからこそ正直に”という誠意の表現。ぶつけ合いではなく、思いやりながらも向き合い、関係を強くするという意識が浸透しています。

Image: Alexandre Van Thuan
そのような価値観は、同僚どうしが一週間を振り返り、感謝を伝えて労いあう一面にも見られます。
お互いの貢献を言葉で伝えることは、肩書きや立場を超えて相手の存在を讃えることであり、関係の再確認でもあります。成果だけでは築くことのできない絆と信頼関係を育てていく丁寧なプロセスなのです。
リスペクトには少しの勇気が必要ですが、特別なスキルは必要ありません。耳を傾ける。違いを受け止める。感謝を伝える。間違ったら謝る。こうした日常的な敬意ある振る舞いと信頼の積み重ねが、デンマーク全体に温かい空気をつくり出しています。それはきっとデンマークだけでなく、どのような社会にも通じる“幸せのつくり方”であるはずです。
Text: Sara Um