Denmark, A Cultural Powerhouse #11
"対話"の文化から紐解く、「世界一幸せな国」の秘密。ゆたかな社会を育み、デンマークを支える見えない力に着目します。
Discussion for life
議論大好きデンマーク人
静かな北欧の一角に位置するデンマーク。この地に生まれ育ったデンマーク人には、シャイな人が多いと言われています。しかし、そのような物静かなイメージとはうって変わって、実はディスカッションが活発で、議論が大好きな国民であることをご存知ですか?世界トップクラスの幸福度を誇る背景には、彼らの”対話”、つまりお互いの意見を述べ合うことを重んじる文化があります。
家庭での気軽なおしゃべりから、職場や学校、さらには政治といった国全体の議論に至るまで、デンマークでは「話すこと」と「聞くこと」が生活の中心です。あらゆる場面で意見を交わし合うことが奨励され、対話を通じてお互いへの理解を深めることがゆたかな社会の基盤となっているのです。
Discuss to discover
ディスカッションは発見のプロセス
たとえばデンマークの学校教育の場面では、義務教育の最終学年では口述試験が行われています。ただ質問に答えるだけでなく、結論に至った根拠や考え方を説明したり、時には別の視点からの疑問に対して議論することもあります。同じくシャイで控えめな人が多いとされる日本人にとっては、決して喜ばしいとは言い難いものですが、このような形式が生徒のコミュニケーション能力や得意・不得意などを見極め、生徒自身にも自分の強みや課題を把握する助けとなっているそうです。
それはつまり、自分の考えを言葉にすることは、相手の理解を求めたり説得するためだけにあるのではなく、自分自身を理解するためにもあるということ。私たちは言葉を用いてアウトプットする時に初めて、自分が持っているものに気付けるのかもしれません。
Team begins with talk
チームワークは対話から
さらにデンマーク教育の日常的な現場に目を向けると、幼児教育から成人教育まで一貫して、個を育むことを意識していると分かります。特に、グループワークを通じた学びはその象徴的な取り組みの一つ。デンマークでは「ディスカッションし、協力して一緒に学ぶ」ことに重点を置き、幼い頃から自分の考えをしっかりと相手に伝えたり、プレゼンテーションの訓練が行われています。算数や国語といった科目でも、個人作業よりも話し合いを通じて課題を解決する方法が取られるのは、社会に出れば一人で行う仕事はほとんどない、という考えに基づいているからです。
成人が通うビジネススクールでさえも「誰かの背景や知識はほかの誰かの学びになる」という考えの下で、年齢や立場、経歴や肩書きに関係なく全員が平等な存在として意見を述べ、協力して新しい価値を生み出すことを軸にしています。
自分のアイデアや意思を素直に表現しながらも、個人の能力に固執せず、対話によってより良いものを追求する姿勢が大切にされているのです。
Conflict-Free Conversations
安全なコミュニケーション
意見を言い合う場には摩擦や衝突がつきものというイメージがありますが、デンマークではそのような心配は無用。彼らのディスカッションの中でも不一致は起こりますが、お互いが違う存在であって意見が食い違うことは自然なことであり、対立することを恐れる必要はないという考え方が浸透しています。それは相手の意見に反論することがあっても、相手そのものを否定しているわけではないという明確な認識があるためです。
さらに言えば、意見を交わすことで人を傷つけたり、逆に人の意見で自分が傷つくといった心配がないことを共有しているからこそ、お互いに言いたいことが言えるのです。探り合いや忖度という習慣がなく、誰もが自分の意見をストレートに主張することができる環境は、デンマーク人たちの人間関係のヘルシーさ、ひいては幸福度の高さにも繋がっていると言えそうです。
デンマークに息づく”対話”の文化と力。対話を見つめ直すことで日常にどんな変化を起こせるか、そのヒントを一緒に探してみましょう。
Text: Sara Um