BIKE TIME #flow
移動以上の自転車時間。
徒歩とも車とも異なる、自転車がもたらす時間感覚の変化を探求。
自転車の速度
自転車の速度は、まさに「ちょうどいい」。
車に乗っていると、景色は窓の外を次々と流れていく。停まるまで細かいものにはほとんど気がつかないし、目的地に着くまでの時間はあっさり移動時間として処理されてしまう。
一方で、歩いているとすべてがじっくり見えるが、遠くへ行くのは大変だ。
動いているのに、観察もできるという絶妙なバランス。
環境音に耳を傾け、スマートフォンも眺めない時間。それは何にも支配されず、ただ目の前のものと向き合い、感じる贅沢。
「急かされる」から、「味わう」へと変わる速度。
時間に追われるのではなく、時間を”所有する”感覚を、自転車がもたらしてくれる。
動き
動きがあるから、時間も進んでいる実感がある。
自転車に乗っているとき、時間は身体のリズムと結びついて、ペダルを回している間は一定のリズムで時が流れている。
時間も前進しているリアルを伴う。
そしてそれが止まると、まるで音楽が一時停止されたように、時間も停滞するように思える。
赤信号でペダルを止めるのはほんの数十秒のこと。なのに、時間の流れ方が様変わりしている。
時間が一定に流れているわけではなく、速く、遅く、時には止まったように感じたりすることに気づく。
移り変わる景色の緩急と時間のリズム。
坂道の頂上までと下り坂の緩急は、体感的にはまるで別の時間軸。
時計の針と目的地ばかりが気になる平日も、陽光がゆるやかに柔らかく感じる週末も、さながら別世界だ。
ひとたび自転車に跨がれば、日々の暮らしのリズムを肌で感じている。
同じ道
同じ道でも、時間の感じ方が大きく変わるのが自転車の面白さ。時間を”はかる”ものは時計だけではない。
向かい風の日には、あたかも見えない壁を押しながら進んでいるように、ゆっくり重く。
逆に追い風が吹けば、時間が縮んで味方してくれているような、不思議な浮遊感に包まれる。
四季の移り変わりにダイレクトに触れる時間も増える。
自然の匂い、街の表情と空気感。壁の内側からは感じることができない味わい。
自分の体がその瞬間その空気の中にいることを実感させてくれる乗り物なのだ。
その日の天候や季節と一つになることで時間と一体となる、時の一部になっていく。
自転車は単なる移動手段ではなく、時間の感じ方を変えるツールだ。
自転車に乗ることそのものが、私たちに、時間とは何かを気づかせてくれる。
Text: Sara Um